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占星学とゲーデル誤用 
『ゲーデルの定理: 利用と誤用の不完全ガイド』(トルケル・フランセーン · みすず書房)

 「最近読んだ本」シリーズです。


第1不完全性定理:自然数論を含む帰納的公理化可能な理論が、ω無矛盾であれば、証明も反証もできない命題が存在する。

第2不完全性定理:自然数論を含む帰納的公理化可能な理論が、無矛盾であれば、自身の無矛盾性を証明できない。


 作者は、物理学者や哲学者を含めた多くの専門外の人々が、ゲーデルの定理を誤って利用し、濫用している点に反論している。この定理の前提には、それが帰納的公理化可能な理論であるということがあるが、他の領域や一般の人間社会は帰納的公理化可能な理論ではない。ましてや自然数論を含むものではない。であるから、それらにゲーデルの論は使えないとしている。そして公理可能な理論自体は、こうした他の領域においては無矛盾であるのが当たり前であると言っている。

 しかし、多くの私達にとって問題はそこではない。作者が訴えるような世間の卑俗な引用の間違いは、人々が、上記のような問題を勘違いしているからだとは限らない。もっとも、作者のようなゲーデルの専門家は当然上記の点だけは明言しておきたいというのも当然であるし、むしろホーキングやジャン・ブリクモン、アラン・ソーカルといった各方面の専門家たちのほうがさらに誤解した言明をしている。

 しかしながら、世の中の認識としては問題はずっと手前にある。つまり「ゲーデルによって世界が無矛盾ではないと証明された!」と騒いでいる定理濫用者たちは、まず、「『人間を取り巻く現実世界全体が、すべて数理によって説明できる』という理屈が迷信であるということを改めて提示しなければいけない」と考えているのではないか。一般世論は、この「世界は数学である」という極めて短絡的な誤謬をまず乗り越えなければならない。

 つまり、作者は帰納的公理化可能な理論ではないから適用されないと言っているが、それ以前に、一般の多くの人間は「全世界の体系的構造が帰納的公理化可能な理論で説明できるかもしれない」と勘違いしているのである。それをまず解かなければならないのだ。

 だから濫用者達は漠然とその無理を知っていて言っているのかもしれない。ゲーデルを持ち出して「どっちにしてもあなたの言っていることは無理なんだよ」と言ってしまったほうが早いのだ。ゲーデルの定理はそこからさらに一歩進んだ(または退いた)問題である。数学的定理はむしろ帰納的公理化可能な世界以外では、世界の一領域として、大変精確で無矛盾であるということであり、これは「科学以外の理論体系」として私の唱える西洋占星学の実在性にもつながる。
 占星学的視点はこうしたこの作者の主張とは無理なく一致する。

 占星学と結びつけてさらに哲学について言えば、ゲーデルが導き出した哲学は、はからずも科学とキリスト教の相性の悪い部分まで露呈させた。単一神的人間観は、人間の定義を一律化し、観測者の立場の可変性、時間(その存在自体というよりはその質的差異等)を定義する余地に対する視野を狭めている。ゲーデルはその人生の後半はほとんど閉じこもってライプニッツを読むばかりだったが、他の多神教の国々を巡れば新しい世界観が得られたのではないか、と感じさせもする。

 ゲーデル本人は哲学的帰結として、「人間知性は機械化不可能である(生気論)、もしくは、人間には捉えられない数学的真理が存在する(実在論・プラトニズム)」という選言命題が成り立つと主張している。

 (ゲーデルはそうではないにちがいないが)、大抵の一般の科学者は、占星学が認められるまではこれを、「生気論的迷信」と呼び、認めざるを得なくなった時「科学的に証明された」と安易に言うのかもしれない。占星学自体は、本質的に科学ではない。いや、彼らは勝手に「科学」呼ばわりする時が来るかもしれないが、私(たち)はごめんである。人間知性を生気論とプラトニズムとして分割思考すること自体、悪しき欧米の慣習の表れではないか。なぜ欧米人が、大変な知の宝庫である西洋占星学を理解できないでいるのかといえば、論理を立てるとき果てしなく一元的にすることで、結果こちらが鼻白むほどに、概念分割が即物的になり、対象の本質からわざわざ距離を取ることになるからである。このような、対称概念を即座に内包しない思考法には限界があるし、またそこには芸術を対象として思考する精神にも欠けている。




ゲーデルの定理――利用と誤用の不完全ガイド
トルケル・フランセーン
みすず書房
2011-03-26






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