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第二章 芸術哲学について1/4 
第二章 芸術哲学について

【芸術における良い作品と良くない作品】
 「芸術」というと、現代の私たちはしばしば「主観なのだから芸術作品に良いとか悪いとかはない」という言い方をする。しかしそれは、芸術作品における「感動」を構成する「感情」と「感覚」を混同しているのではなかろうか。これらは別のものである。
 人は自分の好きな作品を批判されそうな兆しがあると、「主観なのだから芸術作品に良いとか悪いとかはない」と反論する。それは自分の感じたものに自信をもてない存在の劣等感である。私たちは自明のものにはそのようには反応しない。たとえば、とても美味しいお菓子を食べているときに「このお菓子は美味しくない」と言われても人は逆上しない。「・・・そうか?俺は好きだけど。」で済んでしまうはずだ。そして、「芸術は良いも悪いもない」と強硬に主張する人に限って普段はその芸術を愛してはいない。日頃はそれほど集中もせずに「娯楽・気晴らし」として見たり聴いたりしているだけである。しかし、それゆえに、即興の芸術論の場では声を大にして主張するのである。つまり、自分が確信が定かでない分野について、「人間平等」という別の価値観から、自分の劣等感を隠すために、自分の守備範囲外の「芸術」という分野を批判しようとしているだけである。(野球を好きでない人間は、野球の本質について語るべきではない。)
 芸術作品が人間のなんらかの精神活動の技術的具現化である以上、良いものと劣るものは存在する。

【「人はそれぞれ」と断じる愚かさについて】
 芸術において、「人それぞれ」という言葉を用いて、対象の価値を決めるやりとりそのものを否定する態度がある。しかし、人間は何が正しくて何が間違っているのかという真理を追求してゆく生き物である。それ自体が人間の定義であるといってもよい。それが芸術作品鑑賞にも適用されるということである。適用されるということは、大学に美学等の教科があるということであり、芸術家の立場が、かつてのような河原乞食的身分ではないことを意味する。
 「絶対的な真理などなく真理とは相対的である」という相対主義哲学に基づく芸術観は、現代人からは安易に共感されやすい。「これこそが絶対的真理だ!」と主張するよりも、「人それぞれだよね」と言う方が大人で、柔軟で視野の広い印象を与えるからだ。これは現代の高度に発達した社会の人間関係における処世術としても「賢い」印象を与える。現代の社会科学的原理に基づいた動きを考慮しているという点で「頭がいい」という印象を与えるのである。人とむやみな衝突をせずに事を有利に進めることは、考えることを拒絶している多くの人々に支持されやすい。また、芸術に関しては、わかりにくい作品に対してのむやみな劣等感を刺激しなくてすむ。人がこの問題に触れ、否定に走るのを日常的にみるとき、この現代でも感情抜きで語れる人は少ないものだなと実感させられるのだ。
 この相対主義は、現実の世の中ではなおさら「人それぞれで、絶対的な真理なんかないんだから、そんなもの目指さなくてもいい」「何事も絶対的に決められないんだから、適当でいいんじゃない?」と、いう思考停止に陥る。特に民主主義国家の場合には致命的である。考えない「多数決」は無責任な衆愚政治になるからだ。これは、人間一人一人が別個に意思を持つ存在である限り、避けることはできず、政治や社会だけではなく、美意識などの人間の(一見)内面の問題のように感じられるものにも適用する。というか、それが「探究芸術」である。
 紀元前400年ごろ、こうした相対主義の祖であるプロタゴラスの思想に対して、ソクラテスは「人間は絶対的な価値・真理を追究していく存在である」と主張した。そして、無知の自覚こそが真理への情熱を呼び起こすとした。これが「無知の知」である。
 芸術作品、特に探究芸術の立場では、人は常に「何も知らない」状態におかれる。それは芸術作品が言葉や数字による一切の理解を拒絶している現実から始まるからだ。私たちが言葉を失うのは、「愛」と「美」の前においてのみだ。私たちは芸術に感動する時、すべてを自分流に一から集中し考え直さなければならない。そこに人類に与えられた、最も高度な思考がある。人間が常に作り出してきた文化や芸術による「美」は、私たち人間一人一人の個体における「愛」から、本能と欲望を切り離す。
 この意味では、数字の計算が速いこと、人への心遣いにおいて器用であること、絵画作品の文化的時代考証をするだけで理解した気持ちになること等が、いかに人間の頭脳の利用において、お粗末なことかがわかる。

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